与那国空港の前に、ヨナグニイソノギクが栽培され、可憐な花を咲かせています。与那国島だけに見られる固有種です。

　キク科で沖縄県では絶滅危惧種�TA類で、環境省も同様の絶滅危惧種�TA類の指定をしています。高さ15センチくらいになる常緑の多年草。海岸の断崖のような、海を望む岩場で咲く菊で、与那国島だけに自生するこの菊は、花びらが淡い紫色の上品な色であるため、好きな人も多いのですが、危険な海に臨む岩場で咲く花でもあり、なかなかお目にかかれません。

　ヨナグニイソノギクは与那国島の数カ所にわずかに見られる植物。台風による崖崩れで消失した自生地もあるとのこと。もともと個体数が少なく、園芸用に採集され、あるいは自然災害で自生地を消失するなどが、減少の理由です。なかなか見られないことから、種子を育てて2年前から、空港の駐車場の植え込みに植栽されたことで、ヨナグニイソノギクは、簡単に見られるようになりました。このほか、特異な岩が並ぶ断崖地で、自生のヨナグニイソノギクが潮風に揺られながら、淡い紫の直径3センチの花びらを海側にむかって、咲かせていました。なんの変哲もない小ぶりの菊ですが、淡い紫の上品な色と、人を寄せ付けない危険な岩場に生息するヨナグニイソノギクに魅力を感じる人には、得難い風景です。　　　　　　

　日本一小さいセミ、イワサキクサゼミが例年3月下旬に夏を告げます。

　中央気象台石垣島測候所の第２代所長として活躍し、八重山地域の自然文化の研究も手がけた岩崎卓爾が、発見命名したイワサキクサゼミ。体長1.6ｃｍから２ｃｍと日本一小さいセミです。3月27日午前中の晴れ間に、鳴き出しました。小さいので鳴かないと、どこにあるかわりません。日が差し込むと鳴き出し、雲がかかるとなきやみます。厚い雲が張り出すその隙間から、太陽が覗くと、周囲のセミが次々にさきを争うように小さい腹をふるわせ鳴きます。我先に鳴くからか、近いセミ同士が一斉に「ジー」と、夏を告げる声を雑木林に響かせ、鳴き声はまたたくまに広がります。3月下旬の太陽は、手のひらを上に向けると、日差しが手に当たる感触がぐんと伝わります。夏本番の入り口に達した、まさに生命が告げる夏の鳴き声です。昨年の初鳴きは3月28日。ぴったりこの時期に鳴き出す彼らは、新暦の太陽の傾きにあわせるかのようです。曇り空が多いこの時期。石垣島気象台の生物暦も、この日がイワサキクサゼミの鳴く日と発表しています。イワサキクサゼミ初鳴きは、どうやら温暖化とは関係はなく、例年どおりです。沖縄本島ではサトウキビの害虫として、把握されており、迷惑な昆虫のようですが、石垣島では夏の風物詩。雑木林の草木の葉にとまり、小さいながら、大きな鳴き声を発し続けています。28才から68才まで、人生の大半を八重山で過ごし、八重山の自然と島人の人情を愛し、台風と格闘した岩崎卓爾をこのイワサキクサゼミの初鳴きを聞く度に思い出されます。大城立裕著、風の御主前（うしゅまい）は岩崎卓爾の伝記小説。